進撃の巨人129話感想

 

 人生に影響を与える作品というのは限られている。そうそう巡り合えるものではない。漫画などは単なる娯楽として消費され忘れられていく。そうした数々の漫画の中で私の心を掴み、その形を変えてしまったのが『進撃の巨人』である。

 『進撃の巨人』を知ったのはアニメであった。2013年4月からスタートしたアニメは瞬く間にヒットし、社会現象を巻き起こした。リアルタイムで見ていた当時中学2年生の私は夢中になって読んだ。何がそんなにも面白かったのであろうか。

 それは壁を破壊してやってくる巨人と心の壁を突破しようとしてくる他人というのを重ねたからであろう。よく巨人は、アメリカやらブラック企業やら大人やら原発事故やらのメタファーであると言われる。本当は向き合って克服せねばならない問題を壁を作って守っていたと思ったら、ある時壁がぶっ壊されて噴出する。というのがそれらの共通項である。誰でも自分の克服せねばならない問題を先送りにし、結果痛い目を見るという経験はあると思う。進撃の巨人では先送りにした課題とは巨人の脅威であり、結果壁を壊す50mを超える巨人が出現することで平和が壊された。色々な人間が巨人は〇〇〇のメタファーだと言ったのは社会や自己への問題提起からであろう。誰もが乗っかりやすい普遍のテーマが『進撃の巨人』にはある。私にとって巨人とは同級生であり、先輩であり、先生であった。

 中学生の自分は何にでもいちいち傷つき、笑顔で他人との壁を作っていたように思う。繊細な心を守るため、愛想を振りまいて他人が心の奥底まで踏み込んでくるのを防ぎ、結果私は「いい子」を演じていたように思う。幸いにも中学の頃は成績が良かったからめちゃめちゃ先生から褒められた。「いい子」で成績も良い生徒は周りが尖っている中学校の中でとても扱いやすかったのだろう。そうしたメンタリティの私にとって『進撃の巨人』はある種の警告であった。そのまま他人との距離をとり続ける生活は問題を先送りにしているだけであり、あとあと痛い目に合うぞという。そのあとの自分の未来を考えるとまさに慧眼である。

 『進撃の巨人』の中で、主人公エレンは問題の先送りに憤り、そうした状況に慣れ親しんでいる連中を「家畜」という。そして「残酷な世界」において生きるために戦うことを人々に解くのである。問題を先送りにするのではなく、向き合い克服しようとしろという強いメッセージ(と私は捉えた)に当時の私は強く心を打たれた。

 『進撃の巨人』のアニメによるブームはすぎたが、いまだに根強い人気があるのは人々が問題意識を抱えたままだからである。不満のある現状にもかかわらず「家畜の安寧」と「虚偽の繁栄」に浸る人々(その中にはもちろん私もいる)にとって『進撃の巨人』は「自由の翼」となり続けるのであろう。

  そんな思い出深い『進撃の巨人』は2020年内に完結するらしい。こんなにも楽しませてくれ、感動を与え、生きる気力を与えてくれた漫画の最後を見届けようと毎月最新話を買っている。長くなったが、6月9日に更新された129話の感想を書いていくぅ!

 

                 あらすじ

地ならしを止めるため、エレンのもとに向かう一行。飛行艇を使うため、イェーガー派の基地を攻撃する。その中にはかつての仲間がいた。同胞で殺し合いに躊躇いを見せるアルミン、コニー。戦闘が避けられないと分かったとき、彼らは刃をかつての味方に向ける。全ては世界の人々を救うため。。。

 

                  感想

 今回の話での主なキーパーソンはマガトとキースであろう。彼らの散り際は感動的で、とても心にくるものがあった。カッコつけた死に方しやがって!見せ場がもらえただけありがたいんやでッ!

 進撃の巨人では人間が無様に死んでいくことの方が多い。ドラマティックに死ぬことができた彼らはとても運が良いと言えよう。キースは教え子たちに感化されて行動に出たと言っていたが、本当にそうか??と思う。あんた若い頃、英雄願望めっちゃあったやんか!

 私が注目したいのはマガトである。マガトはマーレ人であり、エルディア人を差別する側であった。そしてエルディア人の訓練兵を指導して、壁の破壊に向かわせた張本人である。しかし、良心の呵責にさいなまれ、苦しんでいたという。そうした罪滅ぼし的な感じで今回散っていったわけである。ユダヤ人を列車で大量に移送させ続けた「凡庸な悪」でお馴染みのアドルフ=アイヒマンのようにはならなかったわけだ。アイヒマンは根っからの悪人ではなく、思考停止し、組織に盲従した「凡庸な悪」であった。そしてナチスユダヤ人虐殺のための輸送を熱心に行ったのである。しかし、マガトの場合、組織に従いつつも思考停止せず、どこかでおかしいと思っていたのだろう。それが彼らの最後の明暗を分けた。マガトの場合は差別していたエルディア人との交流があったことが大きいのだろう。差別が問題となっているこのご時世に、諫山創先生からのある種のメッセージなのかなと思った。さすがだぜッ!

 宮台真司が言っていたが、思考停止し「言葉の自動機械化」した人間は近年増えている。会ったこともないくせに韓国人やら中国人を差別する連中、女性と関わりもないくせに、女ってやつは全く、みたいなことをいう連中。そういう人間は進撃の巨人を読めッ!マガト元帥はエルディア人という差別していた人と触れ合うことで、国家に違和感を抱き、最終的に英雄として散っていったのである。この生き様を見て日々の自分の行いを改めなければならない。

 129話で、次の展開の広がりが見えた。飛行艇を組み立てるため、大陸に向かう。おそらく一筋縄ではいかない展開が待ち受けているだろう。マーレ軍が駐在してたりして、ドンパチ繰り広げるのではないかと予想。一ヶ月待つのつらいぜッ!諫山創先生お体にお気をつけて、続き描いてくれよな!