世界システム論講義 感想

 最近、休職期間が終わりバイトを再開している。気になるのが、コロナ自粛期間中に調子に乗った鳩どもが糞を撒き散らしているという現状だ。「平和の象徴」として知られている鳩の糞を掃除することによって金を貰うという構図はなんだか「世界システム」と同型である気がする。19世紀のイギリスの繁栄や20世紀中頃のアメリカの繁栄をパクス•ブリタニカ(イギリスによる平和)とかパクス•アメリカーナ(アメリカによる平和)と呼ぶが、平和の裏側で糞の掃除を押し付けられた人々がいた。そうした歴史を辿っていくのが川北稔氏による『世界システム論講義』である。感想書いていくゥ!

 

           感想

 この本は「近代ヨーロッパ世界システム」が地球上を席巻していく歴史を記したものである。もともと、世界は地球上に複数存在し、「中華世界」や「インド世界」、「地中海世界」がその例である。このような世界は1500年前後から次第に「近代ヨーロッパ世界」に吸収され、「世界=地球」となるのにはそう時間はかからなかった。

 「世界システム論」とは発展の歴史を各国で見ていくのではなく、また、単直線的に見ていくのではなく(イメージとしては各国にレールが敷かれていて、競争している。先進国は後進国よりも先んじている。後進国は先進国のようにならなければならないという決めつけがそこには存在する。)、世界を「中核」と「周辺」で見ていくというものである。中核は複数あり、その中で頭一つ抜けているのが「ヘゲモニー(覇権)国家」である。世界史的にはヘゲモニー国家は3つ、オランダ、イギリス、アメリカである。先進国は勤勉で真面目に働いたから工業化でき、後進国はそうではなかったから低開発に甘んじているというわけではない。中核によって周辺は食料、原材料生産地として「開発」されたが故に経済、社会は歪み、工業化できなかった。このように歴史を見ていくのが「世界システム論」である。

 この本では「近代ヨーロッパ世界」のトップに君臨していた国をそれぞれ見ていっている。ポルトガル、スペイン、オランダ、イギリス、アメリカである。今回、感想を書くにあたり、それぞれについて細かく書くようなことはしない。面白いなと思ったところをピックアップしていく。

 

カリブ海の砂糖王と南アメリカのタバコ貴族

イギリスはアメリカ大陸を支配下においていたことは教科書に載っていると思う。そして支配した地域において、奴隷を用いてプランテーション農業を行っていた。カリブ海地域では砂糖をアメリカ南部ではタバコを生産させた。アメリカ南部のタバコのプランター(おそらくプランテーション農業の監督者)はとても裕福だった。彼らはイギリスのジェントル階級を真似た生活様式を取り入れ、地元の名士として活動した。タバコのプランターを「貴族」と呼ぶなら、カリブ海の砂糖のプランターは「王」であったという。タバコのプランターよりも裕福であったから、砂糖のプランターたちはカリブ海に定住することなく、イギリス本国に帰国する。自らの子どもをイギリス本国で教育させ、そのままイギリスに住み着き、政界に進出する。議会で影響力を持ち、砂糖を徹底的に保護させるのである。

 こうした従属地域への不在というのがのちの開発に大きな影響を与えるというのがとても面白いポイントである。タバコのプランターは砂糖のプランターよりも儲けられないから従属地域に住むしかない。結果、自分たちが住みやすいようにいろいろな施設を作ったり、開発を行う。それが共通の社会資本になる。「貴族」のための道は「奴隷」も歩くことができるのである。一方、砂糖のプランターはイギリス本国での生活を享受していたため、カリブ海の開発は行わない。それが独立した後の発展に影響を与える。アメリカ南部がプランテーション農業の歪みを受けながらも発展できたのは植民地時代の開発のおかげであったというのはとても興味深い。ただ、一方でイギリス本国からの影響が抑えられたアメリカ北部は独自の発展を遂げた。アメリカ北部、南部、カリブ海の格差というのはこういう風に説明できるのである。

 

②誰がアメリカをつくったか

アメリカは多様な人種が存在している。17,18世紀のイギリスからアメリカに渡った人々がその最初である。一体どのような人々であったか。アメリカではイギリスの中流ピューリタンが宗教の迫害からアメリカ大陸に渡り、自由の国アメリカを作ったと言われているが、本書ではそれを「建国神話」と切り捨てている。アメリカに渡ったものの多くは「年季奉公人」であり、白人債務奴隷ともいわれる人たちであった。食うに困った人間、犯罪者がアメリカに渡ったという。痛快な文章があったので本文を引用する。

アメリカ合衆国のような立派な国が、イギリスのクズのような下層貧民によってつくられたはずがない、というWASPの「愛国主義」が、しばしば歴史の客観的な評価を妨げたからである。』

アメリカの始まりは黒人奴隷とイギリスの下層貧民であるという事実は植民地支配の残酷さを表している。「自由の国」はあらゆる面で不自由な人たちによって作られたというのは歴史の皮肉である。本書ではこの後、イギリスにとって植民地とは原料の供給地であるとともに、社会問題の「ゴミ捨て場」であったということが書かれている。オーストラリアなどは犯罪者の流刑地であったことは有名であるが、その辺のことが詳しく書かれている。興味深いので、是非本書を手に取って読んでみよう!

 

 本書では特にイギリスのことを事細かく書いている。おそらく、専門がイギリスだからなのだろう。故にアメリカのヘゲモニーについては随分あっさりしていた。その辺は自分で調べてみようと思う。現在、中核、周辺の関係はどうなっているのだろうか。自分なりに大学講義での内容を踏まえて書いてみたい。

 現在では中国の台頭がめざましい。「世界の工場」としての名声をほしいままにしている。そして次なる覇権を狙って国家主導で開発に勤しんでいる。中進国のわなという言葉がある。低開発国が中進国までのし上がるには大量の安い労働力の投入すれば良いが、中進国になった時、低開発国の追い上げと先進国の技術には敵わず開発が停滞するというものだ。中国は現在そのような状況を打破するため、国家をあげて次に世界を席巻するであろう技術(5Gなど)を確立することに力を入れている。そうした行動は覇権国家への歩みともとれるだろう。近年のアメリカとの対立は次の「ヘゲモニー国家」を争ってのものである。

 中核に対する周辺地域は現在どのようになっているか。ここで登場するのがGVC(グローバルバリューチェーン)という概念である。GVCとは直訳すれば国際的な価値連鎖であり、多国籍企業の1単位のモノを作るときの生産工程の世界への分散のことをいう。例を挙げると、アップルがスマホを作る時、設計はアメリカで行い、原料はアフリカで調達、液晶は台湾で製造し、組み立ては中国で行うという感じである。1990年代以降、ICTの発展に伴って、先進国の高技術と途上国の安い労働力が結びつくというのが可能になった。途上国は多国籍企業のGVCに加わることによって発展することができるようになった。一方で途上国の低賃金労働などが問題になることが多い。周辺地域は植民地支配されないにしても、GVCの最も利益が得られない分野での生産(原料の調達や組み立て)にしか加われないというのが現状である。ただ、先進国の絶対的な優位というのは揺らぎ、南北の格差は縮まってきている。

 中核においても異変が起こっている。ICTの発展以前は製品の組み立ては先進国内でやっていた。アイデア移動のコストがあるためである。ところがICTの発達によって、アイデア移動のコストは下がり、工場を安い労働力が得られる国に移動させる動きがあった。こうして、先進国内の工場労働者は没落していった。そうした人々がポピュリズム政党を支持していき、トランプのような大統領が生まれたのである。

 今後、中核であった国は高い技術力を保持できない場合、中進国にとって代わられる可能性がある(日本は危うい気する)。また、周辺国はGVCに加わることで、中進国レベルまで発展することができるだろう。ただ中国のように覇権を狙う場合、国家主導での開発を行わなければならないし、中核国との対立は避けられない。

 

 

 

 

 

僕の小規模な失敗 感想

 最近は1週間が経つのがとても早い。月曜日は授業を受けて課題をやってyoutubeを見て寝る。火曜日は1限の結構難しい講義(先生がむかつくが有能であり、講義は面白いため脳が破壊される)を必死こいて受けて課題をやって寝る。水曜日は英語の授業を適当に受けてyoutubeを見て寝る。木曜日は4限と5限の講義を必死こいて受けて、直前まで溜め込んだゼミの課題を夜遅くにヒイヒイ言いながらやりつつ金曜日を迎え、1から5限まで講義を必死こいて受けて課題をやって寝る。土日はバイトにいってダラダラ過ごしたらもう月曜日ッ!なんと非生産的か!なんと堕落していることか!日々の雑務に追われているだけではないか!今回読んだ作品はそんな私にぴったりの漫画である。

 それが『僕の小規模な失敗』である。作者は福満しげゆき先生。この漫画は作者の自分語りである。最近、『GANTZ』でお馴染みの奥浩哉先生が福満先生の4コマ漫画をリツイートし、バズった。その4コマ漫画が結構面白く、単行本を買ってみた次第である。感想書いていくゥ!

 

                 あらすじ

 このままではすべてがダメになる!そう思った「僕」は工業高校を中退し、なんとなく漫画家を目指す。しかしあっさり挫折し、定時制高校に入る。このとき、18歳。勉強もできず、モテず、漫画もパッとしない。「僕」の将来はどうなってしまうのか!?

 

                  感想

 この漫画を読んで真っ先に思ったのがこれワシのこと書いてへん??である。「僕」はめちゃくちゃ根暗である。勉強はできず、モテず、漫画も上手くいっていない。そんな「僕」は毎晩天井をじっと見ながら人生に絶望するのである。この心情めちゃくちゃに共感できるッ!なんか寝る前に不安になるやつッ!人生への漠然とした不安というものを上手く描いている。

 そんな「僕」はなぜか行動力はある。定時制高校に入ると、何かしなきゃという思いに駆られ柔道部を1から作り(というのもその高校には柔道部がなく、部員を5人集めることができれば部を作ることができた)、大会でそこそこの成果を出す。漫画家を諦めきれなかった「僕」は出版社に漫画を何本も持ち込む。漫画を描くためのモラトリアムを得るため、大学進学を考えた「僕」は推薦を得るため生徒会に立候補する。などなどめちゃくちゃ行動するのである。もうどうにでもなれという気持ちである種の破滅願望があるのではないかと思うが、それでも行動し、ある程度プラスに働いている。

 こうした「僕」の姿を見ていると絶望的な気持ちになると同時に希望も湧いてくる。私は勝手に「僕」を自分と同じ人間なんだと思って読んでいたが、結果行動力あるすげぇやつじゃん。。。とガッカリした。ダメ人間は同じダメ人間を見つけて安心したくなるものである。あいつがダメなんだし俺がダメでも大丈夫とある種の開き直りをしたくなるものである。一方で、似たような人間「僕」が行動して人生にプラスにはたらいているところを見ると俺でもちょっと頑張ればこうなれるんじゃね!と思わせてくれる。この作者は自分の弱さを隠さず見せてくれる。正直さが読んでいて伝わるから自分に真摯に向き合ってみようと思える。

 この漫画には後半に最大のミステリーがある。というのも、「僕」はずっとモテないでいるのだが、とある女性(いわく美人らしい)に恋に落ち、ストーカーし、最終的に結婚するのである!?ストーカー行為に及んでいるのにもかかわらず、結婚とはこれいかに!?こう書くとストーカーといっても若気の至りを誇大表示してるだけでしょ!と思われるかもしれない。しかしまごうことなきストーカーである。以下がその行為である。なんどもしつこく交際を迫る。なんどもしつこく電話する。その結果、女性から「あなた怖い、もう会わない」と言われる。においをかぐ。セクハラする。あなたはストーカーじゃありませんか?という手紙をもらう。使用済みのストローなどを集める。結構やばくね!?正規のストーカーだ!しかし、何故か付き合い、結婚に至るのである。女性側の視点がないため何故結婚しようと決めたのその動機が分からないッ!シャーロックホームズもコナンも金田一も解き明かせない究極の謎である。勝手に「僕」と自分を重ねていたのが恥ずかしくなってきたぞッ!こいつリア充やんけ!

 とまあ終盤に最大の謎が訪れるという浦沢直樹先生もビックリの展開であるが、やはり「僕」のメンタリティには共感を覚えるし、青年の不安感を丁寧に描いた名作である。福満しげゆき先生はあとがきで「死にたい」や「生きているのがイヤ」と思っている自分を肯定してみようとこの漫画を描き始めたという。作中で「僕」は人生に絶望しながらも、どこか社会と折り合いをつけて生きていこうとしている。ダメながらも行動している。そうした姿勢は読者の胸をうつし、辛いけどもうちょっと生きてみようという気にさせてくれる。この漫画を通じて自分と向き合いたいダメ人間諸君は是非読んでみてはいかがだろうか。

 

 

僕の小規模な失敗

僕の小規模な失敗

 

 

 

 

 

 

 

 

進撃の巨人129話感想

 

 人生に影響を与える作品というのは限られている。そうそう巡り合えるものではない。漫画などは単なる娯楽として消費され忘れられていく。そうした数々の漫画の中で私の心を掴み、その形を変えてしまったのが『進撃の巨人』である。

 『進撃の巨人』を知ったのはアニメであった。2013年4月からスタートしたアニメは瞬く間にヒットし、社会現象を巻き起こした。リアルタイムで見ていた当時中学2年生の私は夢中になって読んだ。何がそんなにも面白かったのであろうか。

 それは壁を破壊してやってくる巨人と心の壁を突破しようとしてくる他人というのを重ねたからであろう。よく巨人は、アメリカやらブラック企業やら大人やら原発事故やらのメタファーであると言われる。本当は向き合って克服せねばならない問題を壁を作って守っていたと思ったら、ある時壁がぶっ壊されて噴出する。というのがそれらの共通項である。誰でも自分の克服せねばならない問題を先送りにし、結果痛い目を見るという経験はあると思う。進撃の巨人では先送りにした課題とは巨人の脅威であり、結果壁を壊す50mを超える巨人が出現することで平和が壊された。色々な人間が巨人は〇〇〇のメタファーだと言ったのは社会や自己への問題提起からであろう。誰もが乗っかりやすい普遍のテーマが『進撃の巨人』にはある。私にとって巨人とは同級生であり、先輩であり、先生であった。

 中学生の自分は何にでもいちいち傷つき、笑顔で他人との壁を作っていたように思う。繊細な心を守るため、愛想を振りまいて他人が心の奥底まで踏み込んでくるのを防ぎ、結果私は「いい子」を演じていたように思う。幸いにも中学の頃は成績が良かったからめちゃめちゃ先生から褒められた。「いい子」で成績も良い生徒は周りが尖っている中学校の中でとても扱いやすかったのだろう。そうしたメンタリティの私にとって『進撃の巨人』はある種の警告であった。そのまま他人との距離をとり続ける生活は問題を先送りにしているだけであり、あとあと痛い目に合うぞという。そのあとの自分の未来を考えるとまさに慧眼である。

 『進撃の巨人』の中で、主人公エレンは問題の先送りに憤り、そうした状況に慣れ親しんでいる連中を「家畜」という。そして「残酷な世界」において生きるために戦うことを人々に解くのである。問題を先送りにするのではなく、向き合い克服しようとしろという強いメッセージ(と私は捉えた)に当時の私は強く心を打たれた。

 『進撃の巨人』のアニメによるブームはすぎたが、いまだに根強い人気があるのは人々が問題意識を抱えたままだからである。不満のある現状にもかかわらず「家畜の安寧」と「虚偽の繁栄」に浸る人々(その中にはもちろん私もいる)にとって『進撃の巨人』は「自由の翼」となり続けるのであろう。

  そんな思い出深い『進撃の巨人』は2020年内に完結するらしい。こんなにも楽しませてくれ、感動を与え、生きる気力を与えてくれた漫画の最後を見届けようと毎月最新話を買っている。長くなったが、6月9日に更新された129話の感想を書いていくぅ!

 

                 あらすじ

地ならしを止めるため、エレンのもとに向かう一行。飛行艇を使うため、イェーガー派の基地を攻撃する。その中にはかつての仲間がいた。同胞で殺し合いに躊躇いを見せるアルミン、コニー。戦闘が避けられないと分かったとき、彼らは刃をかつての味方に向ける。全ては世界の人々を救うため。。。

 

                  感想

 今回の話での主なキーパーソンはマガトとキースであろう。彼らの散り際は感動的で、とても心にくるものがあった。カッコつけた死に方しやがって!見せ場がもらえただけありがたいんやでッ!

 進撃の巨人では人間が無様に死んでいくことの方が多い。ドラマティックに死ぬことができた彼らはとても運が良いと言えよう。キースは教え子たちに感化されて行動に出たと言っていたが、本当にそうか??と思う。あんた若い頃、英雄願望めっちゃあったやんか!

 私が注目したいのはマガトである。マガトはマーレ人であり、エルディア人を差別する側であった。そしてエルディア人の訓練兵を指導して、壁の破壊に向かわせた張本人である。しかし、良心の呵責にさいなまれ、苦しんでいたという。そうした罪滅ぼし的な感じで今回散っていったわけである。ユダヤ人を列車で大量に移送させ続けた「凡庸な悪」でお馴染みのアドルフ=アイヒマンのようにはならなかったわけだ。アイヒマンは根っからの悪人ではなく、思考停止し、組織に盲従した「凡庸な悪」であった。そしてナチスユダヤ人虐殺のための輸送を熱心に行ったのである。しかし、マガトの場合、組織に従いつつも思考停止せず、どこかでおかしいと思っていたのだろう。それが彼らの最後の明暗を分けた。マガトの場合は差別していたエルディア人との交流があったことが大きいのだろう。差別が問題となっているこのご時世に、諫山創先生からのある種のメッセージなのかなと思った。さすがだぜッ!

 宮台真司が言っていたが、思考停止し「言葉の自動機械化」した人間は近年増えている。会ったこともないくせに韓国人やら中国人を差別する連中、女性と関わりもないくせに、女ってやつは全く、みたいなことをいう連中。そういう人間は進撃の巨人を読めッ!マガト元帥はエルディア人という差別していた人と触れ合うことで、国家に違和感を抱き、最終的に英雄として散っていったのである。この生き様を見て日々の自分の行いを改めなければならない。

 129話で、次の展開の広がりが見えた。飛行艇を組み立てるため、大陸に向かう。おそらく一筋縄ではいかない展開が待ち受けているだろう。マーレ軍が駐在してたりして、ドンパチ繰り広げるのではないかと予想。一ヶ月待つのつらいぜッ!諫山創先生お体にお気をつけて、続き描いてくれよな!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チェンソーマン⑦感想

 6月。暑さも本格化し夏の到来を感じさせる月。5月病にさよならを告げ生活にメリハリがつく月(人生5月病という救いようのない人間もいるが)。え、もう半年たったの早っ!っていうしょーもない会話が始まる月。そんな6月一発目の漫画は『チェンソーマン』だ!作者は前作『ファイアパンチ』でおなじみの藤本たつき先生。天下の週刊少年ジャンプで連載中である。

 夏の暑さを乗り切るスタミナ満載の漫画、『チェンソーマン』7巻の感想を書いていくぅ!

 

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チェンソーマン7巻。表紙にはデンジの命を狙う刺客たちの姿が!

 

          あらすじ

爆弾の悪魔レゼの襲撃後、デンジはデンノコ悪魔としてメディアに注目され、世界中の人間に認知されてしまう。世界からの刺客たちがデンジを殺そうと狙ってくる中、特異課は総力をあげて護衛することに。デンジたちの運命は!?

 

           感想

 

 前巻のレゼ編によって大きな盛り上がりを見せた『チェンソーマン』。なんとも言えない読後感を残してくれた。それをどうやって超えてくるのかと楽しみに待っていたら、期待以上の面白さだった!ワクワクが止まらないぜッ!

 まず、デンジをつけ狙う刺客が素晴らしい。アメリカの刺客の三兄弟、北欧?のトーリカとその師匠。中国のクァンシと魔人たち、ドイツのサンタクロース。どいつもこいつも強キャラ感が溢れており、個性豊か。

 アメリカの三兄弟は「俺たちは不死身だ」となんだか噛ませくさいセリフを言って日本に向かう。こういういうやつあっさり死ぬんだよなぁ。。。と思ったら案の定、死ぬ。しかもちょっとギャグっぽく殺されるから同情しちゃうぜ!三兄弟のうち1人生き残り、デンジを殺すため自らを奮い立たせる。さて次の巻でどうなるか!?あっさり死にそう。。。

 おそらくノルウェーかどこかの国のトーリカと呼ばれる男とその師匠は、デンジに呪いの悪魔の能力を使う。釘を4回打てば殺せる中、3回は打ったらしい。残りの1回を師匠はトーリカに任せる。こいつらはなんだか面白い過去がありそうな雰囲気。師匠とトーリカの関係が気になります!

 中国のクァンシと4人の魔人たちは登場してすぐ✖︎✖︎✖︎。あれ掲載誌って週刊少年ジャンプだよね?っと思いたくなる展開!いいぞ編集!そして藤本先生!どうやらクァンシは特異課の岸辺と元バディの様子。年齢いくつなんですかね。。。クァンシはなんかX-MENクイックシルバーみたいな能力を持っているっぽい。EurythmicsのSweet dreamsが聞こえてきますなぁ。特異課の岸辺の過去を知る女クァンシから身が離せん(いろんな意味で)。

 そして、ドイツのサンタクロースと呼ばれるおじいさん。サンタクロースと呼ばれるくらいだから温厚なおじいさんかと思いきや、イかれた目をしているッ!こういう顔が一番怖い!人形の悪魔の力で自分の駒となる人形をボコボコ量産し、デンジの命を狙う!?数の力でゴリ押しするキャラだが、これ多分本人もめっちゃ強い展開と予想。漫画の世界のじじいは強いっていう法則が今回は適用されるのか楽しみである。

 また今巻でもパワーちゃんは大活躍である!虚言癖で差別主義者であり、自己中の最低な奴であるがそんな存在がシビアで殺伐としたストーリーの清涼剤になってくれている!と思う。パワーとデンジのやり取りはとてもアホらしく笑える。パワーちゃんやっぱり最高だわ(差別主義者で自己中で虚言癖持ちだけど)。

 そして今巻で、1番興味が惹かれるのがマキマさんである。ドイツのサンタクロースの人形たちを物ともせず、冷静沈着に対応し味方の死体を集めるよう悪魔に命令する。その死体何に使うんだ!この人は1巻からずっと謎の存在であるし、どの悪魔と契約しているのか予想もつかない。今までの巻で、銃で撃たれたのに死んでいなかったり、死刑囚を使って遠くにいる人間を殺したり、ネズミの塊とともに登場したり、とむちゃくちゃなことをしているマキマ。何でもありだから神の悪魔とか!?だとしたら銃の悪魔なんて恐るるに足らんはずだしなぁ。。。

 そしてラストは結構衝撃的だった。特異課の岸辺ってそんなこと考えてたのか。。。っとなる展開!是非読んでみて確かめてほしい。

 チェンソーマンは今単行本を買っている漫画の中でかなり上位に入る続きが気になる漫画である。魅力的なキャラクターはもちろん、さまざまな映画に影響を受けているであろうストーリー、どんどん話が進むテンポの良さ、は見ていて気持ちいい。前作『ファイアパンチ』ではバトル漫画かと思ったら、観念的でよく分からん展開になり、よく分からん感じで終わってしまった(私の読解力がなかったということでもある)。チェンソーマンではどう物語が展開されていくのか注視していきたい。

 

 

 

 

 

 

 

カムイ伝①〜③感想

 最近(といっても3週間ほど前ではあるが)、ゼミの先生が紹介していた漫画がある。それが『カムイ伝』だッ!1964年から1971年まで『月刊漫画ガロ』で連載されたこの漫画。作者は白土三平。昔の漫画だと侮ることなかれ。「権力」、「差別」、「自然」、「革命」などなどあらゆるテーマがそこには詰められている!(とゼミの先生が言ってた)。まさに大人向けの漫画である。しかし、なかなか読むのに時間がかかる。教科書めいた漫画ではあるから、さらっと読むようなことはできないし、さらっと読むにはもったいないと思った。まだ文庫版3巻までしか読んでいないが、感想を書いていくぅ!

 

                 あらすじ

時は江戸時代。非人、百姓、武士、さまざまな階級の人々がその時代には生活していた。非人のカムイ、百姓の正助、武士の竜之進、三者の物語は次第に絡みあい。。。

 

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カムイ伝』文庫版1巻表紙。

   

                   感想

 あらすじを書くのめちゃめちゃしんどかったー。まだ、3巻で物語の序盤も序盤(文庫版全15巻)なので、おそらくそういうふうにストーリーが進むだろうなぁと思いながら書いたわけである。またキャラがいっぱい出てくるッ!非人、農民、武士の階級から沢山のキャラが出てきて、それぞれの物語があった上で全体として進んでいく群像劇スタイルである。だから物語が見えてこない序盤で、キャラがそれぞれ動いている感じだから、あらすじ結構短めッ!許して!

 さて、3巻の時点で何が言えるのかということではあるが、おそらく主人公は4人。最も差別されている階級である非人出身であり、力によって成り上がりたいと考えているカムイ。百姓の中でも最下位ランクの身分、下人であり頭の切れる正助。武士の階級であり、剣術に秀でる竜之進。そして白い狼。一匹動物おるやんかッ!と思うかもしれないが、最序盤に最もページを割かれている存在なのでおそらく主人公。この三人と一匹は階級が全然違うのだが、共通点がありどいつもこいつも時代に翻弄され差別されているということである。カムイは非人が故に百姓から石を投げられ、非人であるが故に粗末な生活を送らざるを得ない。正助は百姓の最下位ランクなので、やっぱり周りからよく見られず、年貢を納めなければならないから必死に働く。竜之進は差別というよりかは武士階級の政争に巻き込まれ、恋人を失う。白い狼(名前はカムイというのだが、人間の方と被るのでここではこう表記する)は毛の色が他の狼と異なるが故に差別され、群れを入れず作れず、基本的に単体で獲物をとらなければならない。とこのようにめちゃめちゃな境遇であり、現代社会ではありえない状況下の中必死に足掻き、もがき、生きていくのである。もし私がこの時代に生まれたらストレスですぐに禿げてまうわ!!

 なんといっても胸糞が悪いのが、百姓と非人の関係である。彼らは権力者によって互いに互いを憎み合うように仕向けられている。例えば非人は死刑を執行したり、死体の解体などの"汚れ役"をやらなければならない。それ故、百姓からは蔑みの目で見られ石を投げつけたりする一方、非人が問題を起こせばそれを取り締まるのは百姓であるから、非人も百姓をあまりよく思っていない。こうした双方向の憎しみあう構造が権力者へ不満を向かわせないようにしていると白土三平先生はいう。そして主人公たちはその構造の窮屈さ、理不尽さ、矛盾等に皮膚感覚で気付いておりさまざまな行動をとっていくのである。純粋に主人公を応援したくなる漫画である。まだ3巻までしか読んでいないのでなんとも言えないが、おそらく殿様をぶっ倒すところまで話は進むと思うからそれを見るのがとても楽しみであるッ!

 ただ、一筋縄ではいかないだろう。というのも非人の中には権力者のもとに仕え、あらゆる工作を行うものがいる。また百姓の中にも身分があり全然まとまりがない。これだとジャンプ的に仲間を集めて、さあ革命だッ!ドン!とはならないだろう。約260年間続いただけあってさすがの統治機構だぜ!徳川家康はきっと天国で織田信長豊臣秀吉にどうだすげーだろってマウントを取っているに違いない。まだ3巻であるからどう転ぶか分からないけどね。

 この漫画を読んでいると、そういえば江戸時代って階級社会だったよなぁと改めて認識させられる。近年、江戸時代は実はすごくて快適だったとか様々な言説を聞くことが多くなったように感じるが、身分制度などの闇の部分を忘れてはならないと思った。職業選択の自由があって、移動の自由があるというだけでやはり資本主義万歳!って感じ。なんだかんだ批判されることの多い資本主義だが、そうした権利の保障という面で見ればどの時代よりもいいよねー。今日から資本主義の豚として生きようと思います🐷。ブーブー。

 私が一番注目しているのが、白い狼くんである。どう物語に絡むのか期待! 白い狼くんはなかなか可愛そうな境遇だったから、めちゃめちゃ応援したくなる!彼は、3巻でついにバディの片目の狼くんに出会う。一匹狼を卒業し、仲間を手に入れた(まあ仲間というのは人間の勝手な判断であり、生きるために行動を共にしているだけかもしれんが)。まだ、カムイや正助とはあまり絡みがないからどう物語転ぶか非常に楽しみである。

 最後になぜカムイ伝を読んだのか。冒頭で書いたとおり、ゼミの先生が勧めていたというのはもちろんそうである。しかし、それはきっかけであり、前々から読んでみたいなぁと思っていた。一番の理由は『ジョジョの奇妙な冒険』作者の荒木飛呂彦先生が影響を受けたと公言しているからであるッ!私はジョジョが大好きで、荒木飛呂彦先生の他の漫画も大好きである。そうしたルーツを知るという意味で『カムイ伝』を読むことにした。荒木先生がどういうところに影響を受けたと思われるかこのブログで発信していきたい。3巻まで読んでみて荒木味を感じるところは、ナレーションが近いのかなぁと思った。ジョジョではよく小気味のいいリズミカルなナレーションが入る。『カムイ伝』でもナレーションを多用して描写の説明やウンチクを挟んでくる。この部分は似ているッ!ルーツを辿るのって面白いねッ! 

 『カムイ伝』は多くのテーマが込められている。非常に勉強になる漫画である。子供の娯楽ではないぞというところを見せつけてくれる。日本史好きな人、荒木飛呂彦先生が好きな人、理論的なためになる漫画を読みたい人にはぜひオススメ!

 

 

決定版カムイ伝全集 カムイ伝 第一部 全15巻セット

決定版カムイ伝全集 カムイ伝 第一部 全15巻セット

  • 作者:白土 三平
  • 発売日: 2006/05/15
  • メディア: コミック
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

SPY FAMILY ④の感想

 オンライン授業って出席とかない代わりに課題多いよね。今週末までにやらなきゃいけない課題の多さにビビるで!ほんま!夜な夜な課題を遂行するための夜食としての今日の漫画は『SPY FAMILY 』④!感想書いていくぅ!

 

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SPY FAMILY』4巻。表紙の犬は今巻のヒーローだ!

 

                 あらすじ

 前巻で星を1つ得たアーニャはご褒美として犬を買いに行くことに。犬を選んでいる中、ロイドは西国情報局からの招集がかかる。どうやら裏で東国の過激派による犬を使った計画が進行中のようで。。。ロイドはそれを止められるのか!アーニャの不思議な犬との出会いとは!?

 

                  感想

 ここに来て犬を出してくるとは!っというのが最初に思ったことである。犬という動物は飼い主との絆、家を守る忠犬としての役割、飼い主の相棒的存在などなど、さまざまな場面で物語を生み出すスーパーアイテムである!前回の感想でSPY FAMILYは圧倒的他人がどういうふうに一つの家族になっていくのかというのを極端な設定で描いていると記した。そこに犬が加わったら物語に深みが増して絶対今後面白さが指数関数的に上昇するやつやん!犬を物語に今後どう活かしていくのかとても楽しみである。

 そして、この犬は未来を一瞬だけ見ることができる力を持っている。その見た未来をアーニャが心を読むことで共有し事件解決!というのが今巻の流れであった。未来を見る力というのは描くのがとても難しい。少年ジャンプの某先輩漫画も未来を見る力を描いて、矛盾があるとかでボロボロに叩かれていた(そんなに叩かんでもいいものを)。未来を見る力というのはそれだけ矛盾が生まれやすいし、設定するのはとても大変である。その点この漫画が上手いと思うのが、犬が未来を見るということである。犬はもちろん喋れないから行動やらで示すか、アーニャが心を読むしかない。アーニャは犬の見た未来を解釈することで行動することになる。この意思疎通ができないというのをうまく使った展開が今後来るのではないかと予想!ジョジョ3部のボインゴのトト神みたいな展開あるんじゃね!楽しみッ!

 そして今巻のもう一つのトピックは西国情報局の管理官の存在であろう。東国側の過激派に対して次のようなセリフを投げかける。

『おまえら人を殺したことはあるか?

 誰かに殺されたことは?

 砲撃で手足がちぎれたことは?

 骨が砕かれる音を聞いたことは?

 爛れる肉の臭いを嗅いだことは?

 目の前で親兄弟が崩れた家に潰されていくのを見

 たことは?

 恋人の肉片が壁にへばりついているのを見たこと

 は?

 餓えに飢えて木の皮にまでかじりついたことは?

 人間の肉を鍋で煮たことは?

 敵の人間性を否定し殺し続けそれでもしかし復員

 後に心を病み後悔と恥辱に涙しゲロを吐き自ら命

 を絶った者が身近にいたことは?

 大学では「戦争」を習わなかったようだなボウヤ

 たち?』と。

急に『BLACK LAGOON』とか『HELLSING』みたいな長めのセリフキター!!って感じ。こういう台詞回し大好物です!何やら管理官とロイドには暗い過去がありそうである。東国と西国で熱戦、あるいは代理戦争があってそこに従事してたとか!?気になる!過去編はよ!

 この長台詞の最後の部分、大学では「戦争」を習わなかったのか?はとても示唆に富んでいる。大学入りたてのやつはカルトか左翼思想かにハマりやすい。頭に血が昇っていて、俺たちが世界を変えるんだ!という野心がギラギラである。そういう大学生が革命を志して、飛行機をハイジャックしたり、ポアだポアだポアとサリンをばら撒いたり、イスラム国に入国しようとしたりする。この長台詞はまさにそうした背景を漫画に落とし込んだといえよう。テロ、ダメ、絶対!!

 今巻では犬、管理官と魅力的なキャラが出てきた。特に管理官は大人な雰囲気と何やら重そうな過去とそしてロイドとの関係など無限に掘り下げられる。今後がとっても楽しみである。そして何より!ヨルとロイドのはじめての✖︎✖︎✖︎がまだではないか!忘れてねぇぞ俺はぁ!そろそろヨルとロイドの仲を深めていく展開があってもいいと思う!編集者様、そして作者の遠藤達哉様何卒よろしくお願い致しまする。

 面白さブーストの4巻であった!次巻を楽しみに課題をこなしていくことにする!

 

 

SPY×FAMILY 4 (ジャンプコミックスDIGITAL)

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藤原辰史:パンデミックを生きる指針— 歴史研究のアプローチを読んで

 明日はいよいよ高校生とのコラボゼミ。ある資料を読んでそれについて話すというもの。正直全く話せる自信はない。コミュニケーション能力はもちろん、知識においても欠乏している。今回コラボするのは高校3年生。受験生って知識量半端ないんだわ!大学生ならではを活かしつつどう立ち回っていくか。。。ウダウダ言っててもしょーがないのでゼミで使う資料『藤原辰史:パンデミックを生きる指針-歴史研究のアプローチ』の感想、考察をつらつら書いていくぅ!

 

文献

https://www.iwanamishinsho80.com/post/pandemic

 

1, 起こりうる事態を冷徹に考える

◯要約

 人間という生き物は危機が訪れたとき、楽観主義に陥り、現実から目を逸らしてしまう生き物である。今回のコロナ禍においてもそれは同様だ。そして楽観主義はやがて根拠のない確信へと変わる。為政者の楽観と空威張りをマスコミが垂れ流し、多くの国民がそれを信じる。

 そのような楽観主義や自らに都合の良い解釈を除外して、客観的に史料を読み込む技術を歴史学者は持っている。想像力と言葉しか道具を持たない文系研究者であるが、現在の状況を生きる指針を探る手がかりを提示しようと思う。

 

◯感想・考察

 だいぶざっくりとした要約で、自信ないけど許してくれー!

 この章を読んでやっぱり文系って大切だよなーと改めて思った。この文書にある通り、文系研究者は新型コロナウイルスのワクチンを作ったり、治療薬も作れない。でも、希望的観測を捨てて歴史を客観視できる!ドン!ONE PIECEのアーロン編のルフィ感があってめっちゃかっこいい!その文言パクろッ!

 学問にはできることできないことがあるから支え合って成り立っているわけである。近年、日本では文系学部は縮小すべきだという意見が支配的である。今だけ、金だけ、自分だけの精神からすれば、文系学部とは非効率で金にならないお荷物のようなイメージなのだろう。そんな中、筆者は「歴史学者は、発見した史料を自分や出版社や国家にとって都合の良い解釈や大きな希望の物語に落とし込む心的傾向を捨てる能力を持っている。」と言い切った。文系研究者としての意地をそこから読み取ることができる。ドン!

 

2, 国に希望を託せるか

◯要約

新型コロナウイルスの魔の手は日本にも及んでいる。危機が迫るとき人は強力なリーダーに頼ろうとする。情報を詳かに公開し、異論に寛容で、データを改竄せず、部下に改竄を押し付けず、文書を尊重し、歴史を重視する政府ならば多くの人を救うことができるかもしれない。しかし日本政府はこれらを満たす努力を放棄してきた。加えて、「緊急事態宣言」によって基本的人権を侵害する機能を内閣に与えてしまった。緊急事態の名の下に多くの蛮行が許容された歴史は枚挙にいとまがない。

 

◯感想・考察

 この章は現政権への批判がビッシリギュウギュウに込められている。

 情報を隠すことなく提示する。残念ながら黒塗りの資料がお馴染みとなりつつある。

 異論に対して寛容である。誰かが言った!「こんな人たちに負けるわけにはいかない!」

 データを改竄したり、部下に改竄を指示したりしない。赤木俊夫さんは無念のうちに亡くなった。。。

 後世に残す文書を尊重する。文書はシュレッダーへGO(๑˃̵ᴗ˂̵)テヘペロ

    歴史を重視する。自分にとっての気持ちええ歴史だけ見ることにします!

 っとこんなふうな逆走ぶり。お前は『I"s』の瀬戸一貴かッ!おそらく藤原辰史氏は昨今の政治喜劇を苦虫を噛み潰したような気持ちを抱いていたに違いない。それに激しく共感してしまうのは私だけだろうか。

 

3, 家庭に希望を託せるか

◯要約

 国家に頼らない以上、家庭にその重荷がのしかかる。しかし、在宅勤務が難しい親は子どもを不安のままに家に残していかなければならない。親は不況に自らが解雇されるかもしれないという恐怖と子を一人残す不安と闘っている。家庭は安全とは言い難いだろう。 

 そもそも日本は「子どもの貧困化」が進んでいる国である。給食や子ども食堂はコロナ感染のリスクから開けない。また、外出自粛以降、家庭内暴力が増加したというデータが海外にはある。そうした家庭内での問題を抱える子どもや女性にとって家庭は牢獄である。コロナ禍によって、地域コミュニティに頼ることはできない。

 家庭はすべての人にとって決して安全ではないのだ。

 

◯感想・考察

 家庭は安全ではない。その言葉はかなりの衝撃であった。私は幸い、円満な家庭に生まれたためご飯に困ることも虐待もなかった。しかし、私にとっての当たり前を享受できない家庭もあるということを肝に銘じておかなければならない。


4, スペイン風邪新型コロナウイルス

◯要約

 新型コロナウイルスを考える上で参考になるのはスペイン風邪である。

 スペイン風邪とはアメリカを震源とする100年前のパンデミックだ。1918年から1920年まで足掛け3年、死者数は少なく見積もって4800万人、多くて1億人である。コロナとの類似点は、ウイルスが原因であること、国を選ばず地球規模で広がったこと、巨大な船で人が集団感染して亡くなったこと、どちらも初動に失敗したこと、デマが広がり、著名人が多数亡くなったことである。

 ただ当時はインフルエンザのウイルスを分離する技術がなかった。また人口規模、SNSの普及、WHOの存在など違う点も多い。どちらに転ぶかは分からない。

 スペイン風邪が広まった当時は日本では米騒動、シベリア出兵、世界では第一次世界大戦が勃発していた。兵士は換気が悪く、栄養状態も芳しくなく世界各地を移動していたため感染が広がった。今回は観光地への人の移動が頻繁であることが特徴である。

 

◯感想・考察

 はいそこ!要約なのにだんだん長くなってるとか、要約ヘタクソ!とか言わないッ!

 この章では新型コロナウイルススペイン風邪との共通点と異なる点を述べている。

 虫歯が感染の要因でもあったことは意外である。たかが虫歯と思っていたが、口の中は菌の温床らしくいつもより歯磨きちゃんとやろうと思った。

 また、この章のキーワードはオーバーツーリズムである。観光地が耐えられる以上の観光客が押し寄せる状態をいう。世界遺産に認定された富士山で大量の観光客がゴミを落とし、それをきれいにするコストがかさんだりなどがオーバーツーリズムの悪しき例であろう。

 日本は中国からの観光客がいかにお金を落とすかというのに必死になっていた。その結果、中国人の入出を抑えられずコロナが広がってしまったというふうに言われている(中国人の入出を抑えたところで感染を抑制できたかは分からない)。コロナ以降、観光のあり方というのは確実に変わっていくだろう。

 

5, スペイン風邪の教訓

◯要約

 スペイン風邪は多くの教訓を我々に残している。

感染症の流行は一回では終わらない可能性があるということ。

②体調が悪いと感じたときに無理をしたりさせたりすることが蔓延を広げ、病状を悪化させたこと。

③医療従事者へのケアは怠ってはいけないということ。

④情報の開示は素早い分析をもたらして事前に感染要因を包囲できるということ。

⑤データをきちんと残して、歴史的に検証できるようにしなければならないということ。

⑥政府も民衆もしばしば感情によって理性が曇らされてしまうということ。

⑦清掃崩壊の危険性があるということ。

⑧為政者や官僚の感染者が増えて行政手続きが滞る可能性があるということ。

 

◯感想・考察

 私が特に気になったのが、⑥の感情によって理性が曇らされるということである。これは現に起こっていることである。5Gがコロナを広めているというデマやトイレットペーパーの買い占めなどは普通に考えればありえないことである。しかし、恐怖に囚われた人間は理性を働かせることができず、なにそれアホかよッ!と思うような行動をとってしまう。感情にとらわれぬよう空条承太郎のような冷静さを忘れないでおきたいッ!! 

 

6, クリオの審判

◯要約

 新型コロナウイルスが鎮静化しても危機は去ったといえない。ウイルスに怯える人間はなにをしでかすか分からない。人々は個別生体管理型の権威国家や自国中心主義的なナルシズム国家を求めるかもしれない。世界秩序と民主主義の後退が本格化する可能性がある。

 また、「減菌」するための消毒サービスが流行し、それによって人々は潔癖主義に取り憑かれ人間にとって有用な菌やウイルスが絶滅する危機が起こる可能性もある。潔癖主義と人種主義が結びつきナチズムが台頭するかもしれない。

 このような悪い想像はいくらでもできるが、未来への指針めいたものを探ることもできる。

 第一に、手洗い、うがい、入浴、食事、清掃、睡眠などの日常の習慣を誰からも奪ってはいけない。

 第二に、組織内、家庭内の理不尽な命令に対してそこから逃れたり、異議を唱えたりすることを一切自粛しない、させないこと。

 第三に、戦争や五輪など、災害や感染などで簡単に中止や延期できないイベントに国家が精魂費やすことは時間、税金の損失になるということ。

 第四に、グローバル化の陰で戦争のような生活を送ってきた人たちにとってコロナの飛沫感染の危機がどのような意味を持つか考えること。

 第五に、危機の時代においても、情報を抑制することに異議申し立てをやめないこと。

 国家を測る基準は様々あるが、最も大切なのは弱者に対する態度である。危機の時代だからこそ、人の制度の本領が試されている。パンデミックを生き残るのに相応しい国なのか、歴史の女神クリオは常に問い続けている。

 

◯感想・考察

 この章では、未来を生きる指標を探る手がかりを提示している。指標を提示するのではなく、その手がかりを提示するというあたりに、筆者の一歩引いた姿勢がうかがえる。パンデミック後の指標は手洗いを具体的にいつするとか、人とのソーシャルディスタンスは何メートルだとかそういうものであろう。その指標はあくまでも理系研究者の仕事であり、文系研究者は細かく指摘することはできない。しかし、文系研究者としてその指標を提示する土台の部分を提示しようと試みているのだと思う。

 その上で、私が注目したいのが第四の「危機は、生活がいつも危機にある人びとにとっては日常である」という文である。我々は、なんとなく平和に暮らしたきたが、今回の新型コロナウイルスによって全員が平等に不便になり、不安な日々を送るはめになった。しかし、コロナ以前に危機的な状態で生きていた人たちは大勢いる。戦闘機の墜落に怯える人たち、原発事故にあった人たち、長時間労働に苦しむ労働者。私たちはこうした人たちをつい忘れてのほほんと生きてきた。なんとなく将来の夢に明け暮れたり、趣味に没頭したり、家族、恋人と暮らしたりしていた。半径3メートルの中で夢を見ていた。全員が危機的な状態である今日、我々は他者の危機に以前よりも敏感になれるのではないだろうか。他者の不幸を自分の不幸と捉え、少しずつ変えていけるのではないか。そう筆者は投げかけている。

 歴史の女神クリオは複雑な表情でコロナ禍であえぐ人間界を見ているに違いない。なぜならそれは人類にとって危機でもあり、変革のチャンスでもあるのだから。

 

 

給食の歴史 (岩波新書)

給食の歴史 (岩波新書)

  • 作者:藤原 辰史
  • 発売日: 2018/11/20
  • メディア: 新書